パノラマ・パラノイア

暗室
白黒写真が宙吊りに揺らめいている
マッチを擦り火をつける
燃えない
もう一度火をつける
燃えない
宙吊りされているのは私であって
セルフ・ポートレイトのなかの私が
揺れているのだった
始めからなにもかもが失われていた

パノラマ→切り取られた遠景のなかに果してわたしの姿が在ったことがたった一度、たった一度でもあっただろうか、年号・昭和、手当たり次第に標本箱を壊してゆく、くだけたガラスで血塗れのぎとぎとと糸ひく妄執なのだ、釘付けにされた昆虫群、或いはおのれの手足、埃に埋もれた思想のページを繰る、繰る、窓!叫びを上げ乍ら拳を振り上げ、窓!おお、見れば腕など無く、窓!光を反射するのみ、或いは出されなかった手紙、或いは不通の電話回線、或いは泥をすする、或いはいまここに在る、或いは一瞬間のナイフのきらめき、或いは塩化ビニル、或いは嘔吐、そして、そして、そして、