中央線快速電車

新宿のガード下ではいつも男も女も大人も子供もみんなみんな座り込んで顔だけこちらに向けているんだ
わたしはその顔ぜんぶに見覚えがあって、
だけど電車は残酷にスピードを上げてゆくのさ
暗いホームにすべり込み、ドアがひらく、
そこでわたしは気づく
ずっと、ガラスの反射にゆがんだ自分の顔を見つめていただけだったってことに


ドアのひらく瞬間、
たくさんの見えない運動体に引きずられるようにして、
つらい引力に逆らう間もなく、
「新宿、新宿〜」
もうどこでもおまつりは終わってしまっていて、
くすぶる残り火をみるために、
ときどき人々が集まっていると聞いた
わたしはマッチを持っているけれど、
ポケットのなかでくだけてしまった
こんなものでも役に立つだろうか?


ホームは濡れていてよくすべる
だからか、
だからではないだろうけれど、
次つぎ人が線路のうえに転落してゆくのがみえる
わたしは、わたしは、
ホームの端のところで転んでしまって、
落ちるまえに電車がすべりこんできた
車両とホームの隙間から、
わずかにみえた、
手、足、
ずっと続いてある
レール


東の窓から陽が沈むのをみた
レコード逆回転、逆回転
かけて
「なんか言った?」
いえ、あ、
すぐに針は折れてしまうのだから。


朗らかな午後だ、
もうやめよう
くるいそうになりながら、
かたい座席にありったけの重さを乗せて、
どこかへ飛んで行っちゃいそうだ
もうやめよう
きみ、名前はなんといったっけ
なんにも言わなくていいから、
もうやめよう
手を繋いでいて欲しい
バイバイ。


教室から飛び出した
わたしも、きみも、
つぎはどうする?
パァン


警笛だ
ここはどこだろう
ほどけないヘッドホンのコードだとか、
汚れた棒きれ、
ふるいレコード、
パァン
シグナルは青の異常なし


パァン
あかるいね



あかいね。